(されても構わなかったのに)

 

※このおはなしは原作単行本13巻 
                  第百参話のつづきを妄想したものです。



 

「ケロロくん!しっかりするでござる!!」

激しく揺すぶられて、さらには耳元で叫ぶように呼び掛けられてケロロは覚醒した。

「あっれぇ・・?」

瞳を開けて周囲を見渡しても、全くの真っ暗闇で何も見えず。

ただ時折どこからか風の吹き込む、鋭くも寂しげな高い音がする。

己の寄り掛かっていた壁に手を伸ばしてみると、ひんやりとしてやけにごつごつとした感触で。

互いの姿さえも認識出来ない暗がりで、声と触れている体温だけが確かなものだった。

「え〜、えっと・・・ドロロ。ここって何処でありますか!?」

「吹雪が激しくなってきたので、洞窟に避難したのでござるよ」

動揺してひとしきり百面相するケロロに、落ち着いた口調でドロロが答えた。

次いでケロロの意識がしっかり戻ったことを確認すると、揺すっていた手を離す。

まだ薄ぼんやりとしか見えない視界の中に、ドロロの吐き出す息が白く大気に溶けるのが確認出来て。

そのさまから推測するに、雪がない分だけ外よりも随分とマシではあったが、ここも決して暖かくはないのだと解かった。

「そっいえば、我輩たち遭難してたんだっけ?」

「そうなんでござるよ」

間髪をいれずドロロが、返事をしてくる。

あくまで真面目な声色であったが、その表情は薄っすら笑っているようで。

「ぷっ!」

それにお約束のように、ケロロはちょっと噴いてしまった。

やっべぇ〜少し前にも同じような駄洒落を聞いた覚えがあるのに、何故だかまた笑えるよ。

それだけ追い詰められた状態ってことだよね・・・と、ケロロはつい自答してしまう。




「ごめんね、ケロロくん」

「へ?」

唐突な謝罪に、まったりとした思考を打ち切られる。

ケロロは一瞬、自分が何について謝られているのか思い出せなくてマヌケな声を出した。

「・・君はみんなと楽しそうにしてたのに、山小屋から無理矢理連れ出して・・・僕につき合せた挙句に遭難して」

まるっきり懺悔みたいに自分がやったことを、とつとつと語る声は消え入りそうに震えていた。

ドロロはそこにうずくまって、きっと自分の膝の間に顔を埋めているのだろう。

シルエットを確認せずともそれを予想できて、ケロロの胸はつきんと痛んだ。

告白のチャンスをちょっと前に折られてから、ケロロは意識してドロロのことを考えないようにしていた。

スキ−に行きたいと冬樹に突然に強請ったのだって、あの苦い経験を忘れてリフレッシュしたかったからだ。

冬真っ盛りでシ−ズン・オンだからだとか、純粋にみんなとスキ−を楽しみたかったって言うのも勿論あったけれど。

今回ドロロを忘れていたのは故意だったと言う自覚があるだけに、一方的に責める気が起こらない。

「・・・・・」


 胸にわだかまる罪悪感を肺から吐き出すのと一緒に、ケロロはドロロのすぐ隣に座った。

 肘を張ってこつんと、青いわき腹を軽くこづくとドロロが顔を上げてこちらを見てくる。

「僕、頭に血が昇ってて・・つい、こんなこと。
              本当にごめんなさい・・・・」

暗がりにだいぶ目が慣れてきたのだろうか、今は互いの表情くらいは見えるようになっている。

心底申し訳なさそうに瞳を潤ませ、涙声で謝るその姿を見ていると。

もっといじめて泣かせてやりたくなる気持ちと、俺も悪かったと抱きしめて頭を撫でてやりたくなる気持ちが、同時に湧き上がってきた。

ケロロは後者の気持ちを取り、腕を伸ばしてドロロの頭を撫でてやる。

「も――ぉ、いいでありますよ」

「っ・・本当に?」

掠れて鼻にかかった涙声が甘くて、こいつはなんて可愛いい奴なんだろうとつくづく思う。

怒らせるとおっかないと知ったばかりの筈だけれど、そんなことすぐ忘れてしまう。

「それよりも何でドロロはこの・・えっと、(ひと)(いな)(すぎ)村だっけ?に居たのでありますか?」

「・・ケロロくん。ここは(ひと)(いな)(すぎ)村じゃなくて、()()(すぎ)村。

 この村は忍野村があった場所に近い故、久々に訪問してみたのでござる」

話題をふってやると、いかにも解説好きそうなツッコミが入る。

トラウマ時っぽい状態からいつものドロロに戻ったようで、ケロロはほっとしたが。



「そうでありましたか。ひとりで?」

「否、小雪殿と一緒でござる」

「へぇ・・小雪殿とでありましたか。
           それでこんな雪の中で何してたの?」

「折角だからふたりでかまくらをこしらえて、炭火で餅を焼いたりして一服していたのでござるよ」




 笑顔でとても楽しそうに語るドロロを見て、ケロロの心にだんだんむくむくと暗雲が広がり始める。

嬉しそうに小雪と雪中でじゃれあったことを語るドロロは、先程の憂いが嘘のようにかけらも見えない。

なんだよなんだよ・・それじゃあ自分が誘わなくても十分、楽しんでいたんじゃないか。

会話の流れに次第にざわめく感情を抑えきれず、ケロロは唇を噛み締めた。






小雪は地球(ポコペン)人でドロロはケロン人、種族がまるっきり違う。

だからいわゆるケロロが、ドロロに対していつかしたいと願っているような行為は出来ないし。

小雪もドロロとそんな関係になるのを望んでいないだろうから、嫉妬するいわれなんてない。

理性的に考えたらそんなこと解かっているのに、イライラと炎のような感情をケロロは心に呼び起こしていた。

それはひとえに常々、小雪とドロロの間には種族どころか宇宙を越えた親密な絆があるように見えるからだ。

何よりも地球で再会したとき、明らかに忍者の小雪に影響された口調と態度にケロロはショックを受けた。

幼馴染で初恋の相手で、想いは伝えられなかったものの友としてずっと付き合ってきたのに。

よく知っていた筈の相手が、たったの数年で変えられてしまったようで。

ケロン星に居たころのお前は、そんなんじゃなかっただろうと。


 悔しくて自分のものにしたいと、そう、ますます思うようになった・・そりゃもう頭から足の先まで、全部。






未だに何やら浮かれた様子で話し続けているドロロを、眉間にしわを寄せて見やる。

ドロロの語る話の内容はもう勿論のこと、ひとつも耳に入っていなかった。

ふぅと短く息を吐き、ケロロは脈絡なく声を挟む。

「あ〜ぁ、やっぱさっきの無し。許すの止めよ−かな」

「えぇ!?何で?」

自分の言ったひと言に動揺して、再び涙ぐむドロロに暗い優越感を覚える。

「でもまぁ条件出して、お前の態度次第では許してやっても良いけどね?」

「・・え」

空色の瞳の淵に溜まっていた水滴が、ぽろりと落ちる。

普段は表情が乏しくて感情がよみ難いドロロだが、ケロロの前ではこんなにころころと変わる。

そのギャップにケロロは、昔から嗜虐心をあおられてしまうのだ。

こちらの言葉や態度に対して一喜一憂する様が、楽しいと同時に可愛くて仕方がない。




「さっきから寒くて仕方ないんだよね〜。だからさ、温まろうよ!」

軽口をかけながらドロロの肩を捉え、そのままのしかかる。

腕を伸ばして背中を抱きしめると、明らかに身体を強張らせる初心な反応が微笑ましかった。

「ええっ・・ケ、ケロロくん?」

ドロロはケロロに抱きかかえられたまま、所在なさげに両手を浮かせている。

ケロロを抱き返す訳でも突き飛ばす訳でもなく、ただじっとしている。

こういうことをするとドロロは大抵、まず焦ってから次いで困ったように笑って首を傾げる。

たぶん今回もどう対処していいのか解からなくて、戸惑っているのだろう。

「ドロロ〜。このままじゃ我輩、凍えちゃうよ?」

こうなったらダメ押しだと決め、ケロロはお得意の甘えたような声色で追いすがった。

「こういう時は裸になって、肌と肌で暖め合うのが一番でありますから・・って我輩たち元々、裸じゃ〜ん!?」

次いでそんな風におどけた調子で発言し、わざと声を上げて笑う。

それにドロロは釣られるように、くすっと笑いを零した。



「だから、ほらほらドロロ・・」

そして名前を呼んでドロロの肩に、ケロロが顎をくっつけると。

ようやく手持ち無沙汰だった青い両手が、緑の背中におずおずと回されてきた。

 その異なる体温がそっと己の身体に触れてくる感触に、ケロロの心はどきりと跳ねた。  

ドロロと抱き合っているのだということを、今更のように実感して胸が高鳴る。


「ドロロ、寒い?」

 こんな風にじっと抱きしめあっていると、お互いの体温が伝わってきてケロロはちっとも寒くなかったが。

自分より儚げな雰囲気をもつドロロが、心配になって尋ねてみた。


「ううん、大丈夫だよ。
 僕は特殊活動兵だから、あらゆる環境に対応可能だもの」

「・・あ、そっか!」

ドロロのアサシン特殊能力のことを失念するなんて、どれだけ自分はうろたえているんだろう。

思春期の頃に初めて父親の部屋でみつけたエロ本を読んだとき、でもあるまいしさ。

一瞬ぽけっとした後で、ケロロは己の動揺っぷりを揶揄して笑った。

「それよりケロロくんは寒くない?」

「いいや、我輩も平気」

「・・良かった」


 その心底ほっとしたような微笑みに誘われるように、ケロロは少しだけ腕にこめる力を強くする。

痛みを感じたのかドロロがちょっと身じろいだが、抱擁を解く気はさらさらなかった。

我知らず頬がじわりじわりと熱くなってきて、思わず抱いた手が少し震えてくる。

 自分で促してそうして欲しいと望んだくせに、柄にもなく緊張している。

それを誤魔化そうとして、ケロロはドロロをいっそう強くぎゅっと抱きしめて口付けていた。

「ん、んっ・・・」

ドロロがいつも着けている口布越しだから、触れるだけの稚拙なキスではあったけれど。

唇を合わせた瞬間に驚いたように瞬きしてかぁと頬を赤く染め、その後で慌ててぎゅっと瞳を閉じるドロロ。

このいじらしい反応に、ケロロが煽られてしまったのは仕方ないと言えるだろう。



「さっき言った、許してやる条件だけどさ・・」

見事にしまりのない顔をして、口を開くケロロ。

「・・ど、どうすればいいの?」

ドロロはゆっくりと視線を上げて、恐る恐るケロロの顔をうかがい見てくる。

キスの余韻で頬を染めたままの不安げな顔に動揺がはっきりと見て取れ、ケロロの嗜虐心は否が負うにも煽られた。

その怯える肩を掴んでぐいっと強く引っ張りながら、ケロロはご機嫌な声色で宣告した。

「我輩が勝手にするから、お前は何もしなくていい。
              その代わり抵抗するの禁止ぃ―♪」

投げ掛けられた言葉に、空色の美しい瞳が動揺してせわしなく瞬いた。

そしてバランスを崩して自分の上に倒れるように落ちてきたその身体を、抱え込んで膝の上に座らせる。

ドロロはしばらく腕の中で居心地が悪そうにしていたが、ケロロによほど許して欲しいのだろう。

すぐにおとなしくなって、向き合ったケロロの肩にそっと腕を預けてくる。



告白もしてないのにこんなに密着、しかもこんな体制でなんて。

ケロロは自分の大胆さに驚くと同時に、自分のお調子者の性格に感謝したくなった。

とりあえず、本能の赴くままに身体を撫で回してみる。

ほっそりとした余計な肉のついていないラインを、探るのが楽しかった。

手に吸い付いてくるような木目の細かい肌が、心地いい。

抵抗したいのを耐えているらしいドロロの身体は不自然に強張っていたが、頬はいい感じに紅潮している。

こんな風に至近距離で互いに顔を突き合わせていると、またキスをしたくなってきて。

ケロロは両手でドロロの頬を包み込んで口布を下げ、直接に唇をふさぐ。

「ん!んぅっ・・ふぁ・・・っ」

滑り込んできたケロロの舌に口内をかき回され、ドロロの喉から艶めいた息がこぼれる。

こすれ合う粘膜が熱くて、錯覚だろうけれどほのかに甘い気すらして。

 舐めて絡めて溶け合って、体温の違う唾液をかき混ぜるのが不思議に心地いい。

 呼吸をするために唇を離すことすら惜しい程、夢中になって舌を何度も絡め合う。


 口の奥が間接的にドロロのもっと深い、身体の内部を連想させてなんとも官能的だった。

そのままゆっくりと顔を離すと、唾液が糸になってふたりの間に引かれた。



「ん・・っ、・・やぁ・・・」

喉を喘がせてドロロは、耐え切れないような声を漏らした。

「ここ、弱いのでありますか?」

尋ねてやると剥き出しになった唇をきゅっと噛んで、ふるふると首を横に振る。

必死に否定するくせにケロロが指でツツツと皮膚をなぞれば、ドロロは律儀に反応してくれた。

無遠慮に敏感な腹の階級章のあたりを撫でると、喘ぐ媚態が堪らない。

ケロロは感じてくれているのが解かって俄然やる気を出し、ドロロの太ももやらわき腹を撫で回しまくった。

ケロン人特有の突き出した尻の辺り、そんなきわどい部分にまで手を彷徨わせる。


 つるりとした尻の頂に指の先が触れた途端、ドロロの身体が一瞬にして強張った。

「あぁ・・ッ」

同時に喉の奥から引きつったように、高く短い声が上がる。

ケロロの膝の上で開かされていた脚ががくっと震えて、肩に回している指に力がこめられた。



やがて大きく息をついてドロロは、息が整わないまま泣きそうな声で尋ねてきた。


「・・何でっ、こういう・・・ことするの?」

瞳が潤んだ半泣きで紅く染まった顔でそんな風に言われると、何ともいえない気分になった。

同時にドロロを愛しいという気持ちがじわりと、加速するように湧き出てケロロを包み。

「何でって、そりゃあ我輩はお前ことが・・・」

雰囲気に流されるまま、ケロロが告白しかけたとき、

 

どぉぉ〜ん

 

「「?!」」

ケロロの声を掻き消すように、洞窟内に大きな音が鳴り響いた。

継続して地響きと振動が起き、それに伴って洞窟の壁面がぱらぱらと崩れ落ち始める。

音はだんだんと大きくなり近づいて来るようで、振動も強度を増していく。

ドロロの瞳に鋭い緊張が走り、瞬時に場の甘やかな色が消え去った。

ケロロの膝の上から俊敏に跳び退ると、音が聞こえてくる方角に視線を向ける。

「・・ケロロくん、拙者から離れないで」

状況について来れずにぼんやりしているケロロを、背にかばうようにして立ち。

腰に差した刀をいつでも抜けるよう構えるドロロの姿は、先程まで抱き合っていた相手と同一だとはとても思えない。



暗闇にふたつの赤い光が点滅したと思ったら、ふと辺りが明るくなった。

「あれは・・!」

洞窟の壁面を壊しながらふたりの目の前に現れたのは、見上げるほど大きなクマだった。

そいつの身体の表面は超合金で出来ていて、すぐにロボットであることが解かる。

そのクマの口から勢いよく、赤い影が飛び出してきた。

「ドロロ!ケロロ無事か!?」

「ギロロくん!」

赤い幼馴染は愛用のライフルを肩に担ぎ、こちらに近寄ってきた。

見上げれば、クマの瞳の部分にあたるコクピットにクルルの姿もある。

「あんたらが行方不明になったって、日向冬樹が騒ぐからよ。

 この雪上車『吹雪号』で、わざわざ迎えに来てやったんだぜ」

機械を通して増幅されたクルルの声が、洞窟中に反響した。

見た目はただのクマ型ロボットなのに、雪上車に改良したものらしい。

全長は約7m・幅3.5mで高さは3.3mで、総重量は11トンにもなり。

低温対策でマイナス60℃までなら普通に動き、マイナス90℃位までなら壊れることなく長期保管が可能だ。

ボディーの鉄板は厚さが5cmもあり、断熱材が発砲充填され。

 窓は旅客機と同じ二重ガラスで内部の温度は20℃以下にならないよう設定されている。



ちなみに『吹雪号』とは現在も南極観測隊で使用されている最も大きい、国産初の実用雪上車の名前である。


続けてどうやらカタパルト・デッキになっているらしいクマの口から、タママが飛び降りてくる。

「軍曹さぁ〜ん!」


 タママは大きな漆黒の瞳に涙を浮かべて、ケロロに弾丸のごとく一直線に突進してきた。

その勢いと雰囲気に押されるように、ドロロが身体をずらした。

「・・・ぁ」


 手元を離れてしまったぬくもり、その喪失感にケロロは思わず小さな声を漏らしていた。

 行き場の無くなった腕は、愛おしい熱をかき抱いた形で開いたまま・・・

 その腕のなかにケロロを愛してやまないタママが、思い切りよく飛び込んでくる。

「軍曹さん!本当に無事でよかったです〜ぅ・・・」

「ぅわぉッ!!」

 ケロロは咄嗟に受け止め切れなくて仰け反り、再び冷たい洞窟の壁と仲良くすることになってしまう。

その胸元に離れないわと縋りつきつつも、安堵からか涙をこぼすタママ。

そんな情熱的な部下に戸惑いつつも視線を上げると、すぐ傍に腕組みをして立っているギロロと目が合った。

「・・心配かけて、すまなかったであります」

するとふんっと鼻を鳴らして、ギロロはそっぽを向く。

双眸を細めて肩をすくめるその様子から、明らかに機嫌が悪そうだ。

「今回のこと、全ての騒ぎを起こした元は拙者で御座る。
                       かたじけない」

「何を言うドロロ、お前は悪くないだろう。
 そもそもの事の発端は、こいつに原因があるんだからな」

うなだれて謝罪の言葉を口にしたドロロに、ギロロはふぅと息を吐いて。

次いで青い肩をあやすように軽く叩きながら、きつい目つきでケロロを見やる。

「なんだよ・・」

自分に非があると自覚はしていたが、改めて他人に指摘されるのに反感を覚えてケロロは声を絞った。

それにギロロの上からの視線や態度も、ドロロにいとも簡単に接触する様も気に喰わない。

無言で睨み合うふたりの間に険しい緊迫感が生まれ、威圧的な空気が場を支配する。




「・・・軍曹さん?」

雰囲気に気圧されたタママが漏らした呼び声に、ケロロはようやく我に返った。

二の句が継げずにいたケロロを捨て置き、ギロロはドロロの手を引いて歩き出していた。

「何をぐずぐずしている、帰るぞ」

何事も無かったように声をかけ、クマ型ロボットもとい雪上車の掌中へギロロは到達している。

パワ−ドス−ツとは違う形式の乗り物なので、コクピットに搭乗するにはそこから運んで貰わなければならないのだ。

ギロロに寄り添うようにして立ち、ドロロがこちらをじっと見つめていた。

空色の瞳は澄んでいて、表情が乏しくて感情がよみ難いものであったが。

それは自分とふたりきりで居たときと異なり、安心しきった表情に思えた。

湧き上がる自分の醜い感情に苦い息を吐いて、ケロロは無意識に唇を噛む。




「ク〜ックック。早くしねぇと貸しを高くするぜぇ、隊長」

色々な感情が心中には渦巻いていたけれど、クルルの声に急かされてケロロは帰路についた。


雪上車『吹雪号』は再び轟音を響かせながら洞窟を破壊し、一面の銀世界が広がる外へ脱出する。

昨夜の嵐が嘘のようにおだやかな空、茜色の朝焼けが雲を染めていた。

そんな美しい色彩のコントラストを描く世界を見ても、ケロロの気持ちは晴れなかった。

「軍曹さん、空が綺麗ですぅ。
            今日は絶対にいい天気になるですよv」

らしくなく浮かない表情をしているケロロを元気づけようとしているのか、明るい声で仕切りに話しかけてくるタママ。

 それに条件反射のように首を縦に振りながら、ケロロはひたすらぼんやりとしていた。

広いとは言えないコクピットの中、あれだけ気にしていたドロロの存在を探すこともしないで。



「・・されても構わなかったのに」

だからそんなケロロの背中に向かって後方の座席に居たドロロが、ひっそりと囁くように呟いた声は届かなかった。

ただドロロのすぐ横に座るギロロだけがその言葉を聞き、複雑そうな表情をする。




「毎日 吹雪 吹雪 氷の世界〜♪」

楽しげにアカペラで歌いながらクルルは、操縦管のギアを思いっきり手前に引いた。

途端にがくんと車体が揺れたかと思ったら、雪原から上空へと凄まじい速さで浮かび上がる。

そして日向邸の方角へと旋回し、音の速さでそちらへと飛び去る。

先程まで洞窟の壁である岩盤をいとも簡単に破壊していたことから、ただの雪上車でないと察してはいたが。

 この動きは想定外だった。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

目まぐるしく変わる圧力と重力加速度に振り回され、悲鳴を上げる。

座っていた席にぴったりと身を貼り付けるようにして、ケロロは決死の覚悟で手すりにつかまった。

 

To be continue・・・





(されても構わなかったのに)