ソーマ様のお部屋に帰ると何故か、いつもはお風呂や寝具を整えて添うために控えている女中達がいなかった。



不測の事態に焦ったが、見てみるとすでに寝室もお風呂もちゃんと支度が整っているのに気がついた。




「どうかしたか、アグニ?」


「・・・え?・・あっ。はい」




 つい上の空になっていたら、長椅子に座っておられたソーマ様に顔を覗き込まれてしまった。


 今では私とほとんど身長が変わらなくなってしまわれたので、低い位置から見上げられるのは久しぶりだ。




 彼はいつの間にかご自分のターバンを解かれ、ジョードプリのスーツの上着も脱いで楽な恰好でくつろいでおられた。



 薄明るい灯りに照らされて薄いシャツごしに均整のとれた身体つきがはっきり解かり、私は何かどきりとした。


 あきらかに思春期の頃の滑らかな筋肉のつき方とは違い、今更ながら大人の男に成長されたのを意識する。





「そうだ、アグニ!今宵は一緒に風呂に入らないか」




 しかしふいにかけられたソーマ様のうきうきした声に、思いがけず私は戸惑った。



 彼は立ち上がると私のターバンに手を掛け、器用な手つきでみるみるうちに解いてしまう。


 すると5年間で腰まで伸びた長い銀髪が、渦を解きながらぱさりと音をたてて肩に落ちてくる。



 そして腰を抱かれてキスをされると心は歓喜に満たされ、彼の言うことをなんでもきいてしまいたくなるが。




「・・・・それはなりません。私はただの使用人ですから」


「まあ、そう硬いことを言うな。
 それに先に人払いをしておいたから大丈夫だぞ」




 ソーマ様のお言葉に私は思わず呆気にとられて、口を開けてしまった。


 お世話をする女中達が居なかったのは、彼女らが役目を放棄したり忘れていたからではなかったようだ。




 でもいくら人目がないとはいえ、使用人がご主人様と一緒にお風呂にはいるなんてあまりに不敬だ。


 それに万が一にも誰かに見られたとしたら、私などのせいでお立場が悪くなってしまわれるだろう。


 そう考えて横に首を振って断りの言葉を繰り返すと、ソーマ様は不満そうに頬を膨らまされた。



 しかしそれからすぐに身体がふわりと宙に浮かんだと思ったら、私は彼に横抱きにされて運ばれていたのだ。




「ソーマ様ッ・・・お、降ろしてください!」



 腕の中で慌てふためく私を見てお笑いになりながら、そのまま浴室の方に事も無げに歩いて行かれる。





 ここ数年で武術の腕を磨いて身体を鍛えられるうちに、ソーマ様は腕力がとてもお強くなられた。


 技術面や速さでは私の方がまだ上だと思うが、単純な力での勝負ならもう負けてしまうだろう。





 なすがままで浴室の前まで運ばれ、脱衣場に降ろされるとすぐにソーマ様は私の服を肌蹴られた。




「・・あ」




 汗をかいているに違いない首筋を舐められて焦ったが、ソーマ様はまるで気になさっておられないようだ。


 クルタのボタンを外されて鎖骨の辺りの肌に強く吸いつかれ、いくつも鬱血の痕を残される。



 腰に回されてきた手に黄色のストールを解かれてしまうと、私もついに観念して彼の下衣を脱がすのを手伝った。





 互いに素っ裸になって浴室で身体を清めて浴槽に浸かると、ソーマ様が微笑みながらこう言われる。



「たまにはこういうのも悪くないだろ?」




 この浴槽のお湯は近くの源泉から引かれているので、たっぷりとした湯量は確かに魅力的だと思う。



 城内には使用人用の温泉もあるが、場所が外でしかも大人数用なので底も浅くてゆっくり浸かれないからだ。


 王族の方々にだけ許された贅沢に与らせていただいているのがとてもありがたくて、合掌していると笑われながら抱き寄せられる。




「アグニ、今日はお前にずっと触れたくて堪らなかったんだ。
 やっとふたりきりになれたな」


「はい」




 私が返事をするとソーマ様は幸せそうに微笑んでゆったりと力を抜き、そのまま体重を預けてこられた。


 お身体を支えようとしてその背に腕を回すと、近づいた距離に促されたように自然と唇が重なる。



 啄ばむように擦り合わせた後で舌先が促すように触れ、彼の愛撫を受け入れるために従順に口を開いた。




「んん・・・っふ、・・ぅんっ」




 滑り込んできたソーマ様の舌が歯列を舐め回し、奥で縮こまる私の舌を探って口腔の粘膜を撫でてくる。


 舌を絡めとられると吸われ、何度も顔の角度を変えては唇を合わせた。




 彼よりもずいぶん年上でしかも男である私が、こんな風に愛して頂けるなんて今でも信じられない。



 でもこうして抱きしめてくださる腕にお応えする資格が、本当に私などにあるのだろうか。


 サヴィトリ様の言われていたことがどうしても引っかかって、鬱々とした思考に埋没してしまう。



 私の存在がソーマ様を貶めているのなら、言われたように身の程をわきまえて執事職を辞めるべきだ。




「兄上の言っていたことを気にしているのか?」




 思考がよほど顔に出ていたのだろうか、目を細めたソーマ様が愛撫を中断して尋ねられる。


 図星を指されて黙り込んだ私を腕に閉じ込めると、彼は宥めるように片手で頭を撫でてきた。




「何も心配することはないぞ、アグニ」


「・・・ソーマ様」


「母上や爺が何も言わないのは、きっとお前との関係を暗黙のうちに認めているからだ。
 お前のように有能な執事は滅多にいないしな」



「そ、そのようなことは・・・・」




 優しげなお声で語ってくださる手放しの称賛に、顔に熱がのぼってくる。


 ソーマ様のお言葉を信じたいが、私は自分のような者に認められるような価値が有るように思えなかった。





「たとえ有能だとしても、私はソーマ様にいつも朗らかでいて頂きたいという想いで動くに過ぎません」


「なにを謙遜することがある。
 お前が側に居てくれるから、俺は日頃の政務に耐えて従事していられるんだ」




 初めて想いを告げられたときと変わらない澄んだ鳶色の瞳にじっと見つめられ、真摯に言われた言葉に胸が高鳴った。


 温かい手が頭を愛撫するように緩やかに滑っていく、その優しい体温に涙が出そうになる。




「だから俺は兄上でも誰に対しても譲らないし、誰に何を言われてもお前を離す気はない」




 私のためにあんなに怒ってくださったソーマ様、やはりこの方の言うことを疑うことなど出来ない。



 肩に垂れている長い銀髪を手ですくって、それにまでキスをされる。


 そういえば短く切っていた後ろ髪をまた長く伸ばしだしたのも、彼に望まれたからだった。




 私の存在理由は拾われたときからずっとソーマ様なのに、何で離れようだなんて愚かなことを考えたのだろう。






「・・・あっ・・んん、はぁ・・・・ッ」




 キスをされながらふいに乳首を指で摘まれると、大袈裟なほどに肌がびくびくと震えた。



 すぐにぷっくりと膨らんできた乳首に吸いつかれ、熱い唾液が絡んだ舌で舐めて転がされる。


 こりこりにしこってきた突起をちょっと歯で食まれると、甘い喘ぎを我慢することが出来なくなった。




 同時に手が胸から腹にかけての肌を撫でるように這い、すでに熱を帯びてきていた下腹部に伸ばされる。




「あぁ、はぁぅ・・・や、だめ・・・だめです・・・・ッ」


「駄目じゃないだろう。ほら、もう濡れてきてるぞ」




 直に性器に触れられただけで腰が揺れ、さらに自分の淫らな反応を指摘されて かあっと顔が熱くなる。


 本来は抱かれる立場には無い筈の肉体が淫らに疼き、どうしようもなく心地よさを貪る。



 与えられる刺激に堪らなくなって擦り合わせていた膝を掴まれ、両脚を大きく開かれてしまった。


 恥ずかしい状態になっている秘部を暴かれて、ソーマ様の眼下にすべてを曝け出すと身体が勝手に火照ってくる。




「・・ここで挿れても構わないか?」


「はい・・・」




 そんなふうに尋ねながらソーマ様が身体を密着してこられ、彼の硬く熱い性器が内腿に触れてきた。


 興奮してくださっているのが解かって嬉しくて、恥じらいつつも微笑みながら腰を持ちあげた。



 露わにされた後孔を先走りに濡れた指で触れられると、粘膜の奥が堪らなく疼いてしまう。





「ぁあっ・・。はぁ・・・あ、あぁぁ・・・っ」




 窄まった襞を辿るようにしばらく這わされていた指先が、そろそろと粘膜の入り口から体内に進入し始める。



 後孔をだんだんと拡げられ、粘膜を掻きまわす指の動きに伴ってお湯が中に入り込んできた。



 それで滑りのよくなったそこを増やされた指で抜き差しされる快楽に、喉をのけ反らせて腰を揺する。




「・・んん―っ、あぅ・・・あぁッ!」




 掠れた淫らな声がもれてしまうのがみっともなくて手で口を塞ぐと、中の弱い部分を狙われて身体が跳ねた。



 達しそうになって思わずもがいて動かした腕が、泳ぐときのようにばしゃっと大きな水音を立てる。


 そのさまよっていた手をソーマ様に捕らえられ、ぐっと指を絡めて水中から引き上げられた。





「アグニ、俺の背中に手を回せ」




 命じられるまま頷いて腕を回すと、骨格のしっかりした逞しい背中に頼もしさを感じた。



 それで体勢が安定すると中から指を抜かれて腰を抱えなおされ、熱い先端をすっかり解れた後孔にあてがわれる。



 えも言われぬ快感と興奮で全身はすっかり火照り、いつのまにか私の瞳には生理的な涙がにじんでいた。




「・・・あぁぁっ!」




 粘膜の入り口を開いて思春期を過ぎてすっかり太く長く成長を遂げられた性器が、ずぶずぶと飲み込まれていく。




「アグニ、ちゃんと俺に掴まっていろよ。・・そうしないと溺れるぞ」




 ソーマ様はゆっくりと性器を挿入しながらも、いたずらっぽく笑ってそんな言葉を耳元で囁かれる。



 それに動揺して咄嗟に彼の肩に腕を回してすがると、自らさらに深みへ性器を導いてしまった。




「あぁ・・あ!・・・はぁぅ、あぁ・・っ」




 押し開かれた脚の間にソーマ様の下腹部がぴったりとくっつき、性器が根元まで埋まっているのが解かった。


 苦しくて息を吐いて力を抜こうすると、奥の壁に当たっている熱く猛った存在をはっきりと感じてしまう。





「大丈夫か?お前は可愛いな・・・・」




 涙でぼんやり霞んだ視界に、優しく囁きながら覗き込んでくるソーマ様の顔が映った。



 うなずくと頭を撫でていた手が汗で額に張りついていた前髪をかき上げ、露になった額にキスを落とされる。




「あ・・・もぅ、して・・・して、ください」




 気づかいのお心をくださるのが嬉しくて、恥ずかしかったけど私はおねだりせずにはいられなかった。



 ソーマ様は私のはしたない言葉に驚かれたのだろうか、少し目を見開いてから笑ってゆるやかに律動をはじめられた。





「あっ、あぁ・・・ん、はぁ・・・あっ、ああっ・・・・」




 突き上げられる身体の中から沸き起こってくる熱と水の頼りない浮遊感に、頭がくらくらしてくる。



 じゃぶじゃぶと激しくなっていく水音が耳に響いて、それが行為の激しさを伝えているようで堪え切れない羞恥が沸き起こった。




 それでも耳元に落ちるソーマ様の荒い息遣いと、痛い程に抱きしめてくる腕の力強さに酔う。




「・・・好きだ、アグニ。
 俺はアグニ、お前のことがずっと・・・ずっと、大好きだ」


「はぁ・・ぁあ・・・っ、ソーマさまぁ・・・わたしも、大好きです・・・ッ」




 繰り返し名を呼ばれて応えた途端、はからずも中でぐっと大きさを増した熱い性器に喉がひくりとふるえた。



 鳶色の瞳を見上げると貪るようにキスをされ、その激しさにますます溺れていく。


 繋がった粘膜を中心に熱が全身に広がり、そのまま解け合ってしまいそうな錯覚に陥る。




 わけが解からないくらいに気持ちがよくて、だんだんと速くなっていく律動が絶頂がすぐ近くまできていることを知らせる。




「・・うッ・・・はぁっ、はッ・・・だ、出していいかっ?」


「はいっ。あ、あぁっ・・・だしてくださぃ・・なかに・・・ッ」




 切羽詰まったご様子のソーマ様の性器に粘膜を激しく擦られ、私は熱い呼気をこぼしながら何度も促した。



 浴槽の水を汚すことも気にかかっていたが、それよりも彼とひとつになったという証が欲しかったから。




「あぁッ!・・あ、あっ、あ―ぁぁ・・・・ッ!」


「・・く、ッんん・・・ッ!」




 ずんっとこれまで以上に奥を突かれ、私はソーマ様の背に回した自分の腕に爪を立てて痙攣したように身体を震わせた。



 そして体内に熱の飛沫を感じた直後、ひときわ大きな波にさらわれて浮遊感の中で己を手放していた。






おしまい











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